❖ はじめに
線維筋痛症は、原因も治療法もいまだにはっきりしない不思議な病です。同じ診断でも症状は千差万別で、まるで“ひとりひとり違う物語”のように現れます。
私自身も、突然の激しい頭痛からあれよあれよという間に全身に痛みが広がり、気づけば線維筋痛症という名の世界に迷い込んでどっぷりと抜け出せなくなっていました。
3年半の闘病を経て、さらに数年かけて社会復帰しましたが、一般的な働き方ではなかなかうまくいかず、数年かけて自分のペースで、自分の体と対話しながら働く道を選びました。
今は“寛解”と言える状態にあります。とはいえ完全に全部の不調が消えたわけではなく、時々は体調の揺れもあります。
それでも「体と共存する方法」を見つけたことで、ようやく人生を取り戻せた、そんな感覚に近いかもしれません。
同じ線維筋痛症でも、早く落ち着く方と、長く苦しむ方がいます。その違いを決めるものは何なのか。あくまで私自身の経験と考察ですが、いくつかの視点からまとめました。
❖ 考え方の柔軟さ
「痛みをゼロにしなきゃ」と強く握りしめるほど、人は苦しくなります。
それよりも「痛みがあっても、生きる工夫はできる」という余白を持つ方が、心身のバランスが戻りやすいように感じます。
完璧を目指すのではなく、小さくてもいいので“今日できたこと”にそっと目を向けてみる。その繰り返しが、痛みによって狭くなった世界を少しずつ広げてくれます。
私自身はこだわりが強く、視野も狭くなりがちで・・・いろんな治療やお薬を試しましたが痛みが治らないたびに失望し、また情報を集め、次の方法を試す日々でした。
でもそのたび、「まだ選べる可能性がある」と思い直すことができたのは、“完璧じゃなくても続ける”という姿勢に救われていたからだと思います。
同じ慢性痛を抱える仲間には、私が情報を提供しても「どうせ何をやっても意味がない」と聞いてもくれない人もいました。
私以上に治療のたびに期待と失望を繰り返し、傷ついたことが多かったのかもしれません。
私は、治療によっていろんな理論がベースにあることを知り、効果がなかったとしても医師の考え方の違いや治療や薬剤のことなど興味深く感じ、「痛み」を通して人間の体への「興味」が芽生え始めていました。
❖ 心との向き合い方
● ストレスの受け止め方
ストレスを抱え込みやすい人ほど、神経は過敏になります。心のストレスだけでなく、睡眠不足、暑さ寒さ、姿勢、環境の変化、こうした外的ストレスも痛みのスイッチを押しやすくします。
まずは、自分がどんな時にストレスを感じやすいのか、その“パターン”に気づくことが第一歩になるのだと思います。
● 支えてくれる存在
理解してくれる家族や友人がいると、痛みの孤独から少し自由になれます。とはいえ、線維筋痛症は目に見えない痛みですから、誰かに理解してもらうことは簡単ではありません。
それでも、世界には同じ経験を持つ人が必ずいます。コミュニティや相談先につながるためには、「助けて」の一言を絞り出す勇気が必要な時もあります。
当時の私は、人に頼ることが何より苦手でした。でもどうにもならない状況で、初めて「頼る」という選択を受け入れました。
それは弱さではなく、“生きるために必要な技術”だったのだと今は思います。
❖ 身体・体質の違い
線維筋痛症は、身体そのものの反応にも個人差があります。
● 神経・ホルモンの感受性
私は発症前にホルモン失調があり、治療を経て安定したことも回復の一因かもしれません。痛みを感じやすい体質かどうかは、もともとの神経の性質にも左右されます。
● 併発症状の有無
うつ病やリウマチなどがある場合、痛みが複雑に絡まり寛解が難しくなることも。私はまず医師とともに除外診断を進め、不安を一つずつ取り除きました。
● 生活リズム睡眠・食事・運動
この3つを整えられるかどうかは、痛みの落ち着きに大きく影響します。
発症当時、私は過労と介護が重なり睡眠不足でした。休職し、祖母が施設に入り、ようやく心身に隙間が生まれた頃から、少しずつ「回復の芽」が見え始めたのです。
❖ 治療やセルフケアの違い
● 薬だけに頼らない
薬は助けになりますが、万能ではありません。
心理的アプローチやリハビリと組み合わせることで、痛みのループがほどけやすくなります。
私は医師と相談しながら減薬を進めつつ、鍼灸、マッサージ、整体など様々なケアに触れました。
正直、効果を強く感じたものは少なかったですが、多くの専門家の知識に触れたことは、“自分の痛みを理解する大きなヒント”になりました。
● 「快の知覚」を増やす
香り、音、マッサージ、心地よい景色や色。痛み以外の“快の刺激”に意識を向けられるほど、身体は「安心」を思い出します。
私も痛みに支配されないために、意識的に心地よい感覚を増やす生活を続けていました。
その経験は、今のボディケアセラピスト、香りのブレンダー、カラーセラピーの仕事にそのまま繋がっています。
❖ まとめ
寛解を決めるのは、痛みをゼロにすることではなく、痛みがあっても“自分らしく生きられる形”を見つけられるかどうか。
もちろん、それは簡単なことではありません。理想論だけで乗り越えられる病気でもありません。
一進一退で、時に後退することさえあります。それでも、完璧を手放し、諦めず、変化を受け入れながら小さな希望を拾い続けることで、人生は確実に前へ動き出します。
病を憎む日も、投げやりになる日もあるでしょう。それでもその身体は、ずっとあなたを支えて生きてきた身体です。
痛みと“敵”として戦うのではなく、“長く付き合う相棒”として向き合えるようになると、心はふっと軽くなる瞬間が訪れます。
線維筋痛症は研究が進んでいる途中の病ですが、どんな人にも“回復のきっかけ”が訪れる可能性があります。そのきっかけは千通り以上あり、人生のどのタイミングからでも見つけられると私は信じています。
気持ちが続かない日があって当然。でも、私たちは“今、この瞬間”を生きているだけで十分なのです。
未来は誰にも見えないからこそ、今日の小さな一歩があなたの明日をそっと変えてくれます。
痛みによって閉ざされた世界が、ほんの少しでも「心地よさ」を取り戻せますように。
あなたがこの世界で感じられる素晴らしい感覚が、また一つ増えますように。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

